2024-01-01から1年間の記事一覧

引き写し 小川一水『天冥の標Ⅸ ヒトであるヒトとないヒトと PART2』 p206

「ものを持てないの」 気品のある銅色の髪と愁うれいを帯びた眼差しを称えられていた、若年のころのエフェーミア・デル・メリル・ランダルーゼは、親しくなった人にそう言うことがあった。ほとんどの場合それは相手を戸惑わせた。そのころすでに彼女は常に車…

引き写し ぺ・スア『遠きにありて、ウルは遅れるだろう』(斎藤真理子訳) p100より

時は流れた。だが、時はいつも前に流れるだけなのか? 今、この文を書いている瞬間、私をとりこにしている思いがある、私たちが生きている始まりもなく終わりもないこの時間の中で起きたすべてのことは、起きるすべてのことは、すべての者の過去と未来は、す…

引き写し 円城塔『エピローグ』 p42より

現在の現実宇宙の解像度は2.0×1035Ppi、つまり二〇〇ギガyPpiに達しているとされており、数年以内にさらに倍になると予想されている。OTCによる宇宙増築工事の成果だ。yPpiは宇宙解像度の単位であり、プランク長・パー・インチを示す。一インチの中に宇宙の…

引き写し ミシェル・ウエルベック『闘争領域の拡大』(中村佳子訳) p16より

難しいのは、ただルールに従って生きていればいいというわけではない、ということだ。なるほど、あなたはなんとかルールに従って(ぎりぎり、瀬戸際という時もあるが、全体としてはどうにか逸脱することなく)生きている。期日までに確定申告をする。期日ど…

引き写し レイナルド・アレナス『真っ白いスカンクたちの館』(安藤哲行訳) p82より

彼女は廊下の窓のところで――真昼は鋭い音を立て、真昼はすべての輪郭をむさぼっている――たたずんでいた。そうして、窓枠に肘をついて――真昼は破裂し、真昼は彼女の顔を光でおおいつくしている――あの大きな音を、大釜と滑車が立てるあの絶え間のない轟音を聞…